カテゴリー: 混沌の文化

金色の歯

プラハ最後の日の正午過ぎ、
お茶を飲んでカフェを飛び出すと、
モルダウ川のそばの通りで17番のトラムを待った。
向こうからやって来た掃除夫が
箒を休めて話しかけて来た。
キラッキラに目映い二本の金の前歯。

「おっ、金歯、かっこいいね」

本当に似合ってたから、そう言った。
金歯が富の象徴であるジプシーたち。
ひょっとしたらこのおじさんもそう?

「実はこれ、金やないねん。おれ、アゼルバイジャン人。
 あそこには本物の金の歯なんてなかったのさー。
 白い新しい歯もないのさー、それがほしいのさー」

そなんや。いつか白い歯になるといいね。

「ねえねえ、さっき韓国人に出会ってね、
 韓国語で左って書いてもらったの。
 今度は日本語で書いてー。左って」

そう言って左手の甲とボールペンを差し出した。

「ひ、だ、り、」

彼の痩せた甲の骨がごりごりした。

「うふふっ、左って?
 ちゃんと左って書いてくれた?」

うれしそうに「ひだり」を指でなぞる。
それからその50歳ぐらいの痩せた掃除夫は
ipodのイヤフォーンを耳に突っ込んで、
ニッカリと笑うとまた同じ場所を箒で掃き出した。

元気でね。

17番のトラムがゴトゴトやって来た。
それに乗ってちょっと町外れのホテルに戻った。
ホテルから空港までタクシーで30分。
午後3時発のウィーン行きの飛行機に
なんとか間に合いそうだ。

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