午後から出かけ夕方になって日が暮れて、温かい光りの玉のようなトラムでイェラチッチ広場まで戻る途中、暗くなった通りにパッとクリスマスのイルミネーション。クリスマスから逆算してはじめての日曜日に点灯され、一瞬にして華やいだザグレブに、この時季のエルサレムを思い出しながらイェラチッチ広場の大きなクリスマスツリーと青白いイルミネーションを、カヴァナ・ドゥブロヴニクのガラス越しに眺めていた。すると、通りを急ぐ人たちの1人がふと足を止めこちらをみて手を振った。ん?誰?「チェナだよ」隣りでコーヒーを飲んでいた右衛門さんが言った。
チェナ・・・!彼に最後に会ったのはいつだっただろうか。エルサレムで、まだわたしたちが大人になる前だったころだから、7、8年ぶりだろうか。1990年代初めにユーゴスラヴィアが崩壊したことによって、またはコソボ紛争によって難民としてイスラエルに移住して来た人たち。何の縁があってか知り合ったエルサレムのそんなユーゴスラヴィア人青年たちのひとりがチェナだった。カヴァナに駆け込んで来たチェナを覗き込む。すっかり大人になったチェナはまったく別人のようで、あの頃の面影は黒ぶちの眼鏡だけ。ボスニアから奥さんを連れて(そう、この空白の時間に彼は結婚もしていた!)ザグレブに引っ越して来たと、そして相変わらず書き物をしたり、厨房を渡り歩いているという。じゃ、奥さんとの待ち合わせに遅れるからと、電話番号の交換をして別れた。
エルサレムのあの青白いイルミネーションに似たザグレブの夜。広場のステージでは小さな子供たちが新しい年と一緒にシアワセがやってくると歌いダンスを披露している。隣りに設置された大きなテントでは熱々の大きなソーセージにワイン、コーヒーを楽しむ人たち。心に沁みる、何年ぶりで感じる「年の瀬」。
プラハから帰ってきてひとつ気がついたことがあった。もしわたしがもっと若かったら、大人になる前だったら、すっかりプラハに恋をしていたかもしれない。それほどプラハはもう否定のしようがないほど美しい街。だけどザグレブに戻ったその夜、なぜかほっとした自分に気がついた。美しく華やかなプラハよりも、粗野でタフでそのくせ気取り屋で、そんな欠点ばかりが鼻につくようなザグレブが、エルサレムと同じようにわたしにとって「Home」になりつつあるような、それもまたわるくはない、そんな意外な発見だった。
クリスマスマーケットでマカロンを売っていた。一つ6クナぐらいもして、100円ちょいぐらいなのかな?とっても高価だ。生まれて初めて食べたマカロンは、美味しかった。ふわっとしてしっとりして、へー、こんなに幸せなお菓子だったんだ。